こんにちは。よりみちねこです。

「やすらぎの郷」テレビ朝日
脚本/倉本聰
出演/石坂浩二/浅丘ルリ子/加賀まりこ/野際陽子/八千草薫/藤竜也/松岡茉優/草刈民代
他ベテラン俳優多数

2017年4月~9月放送。

かつて民放では、NHKの「朝ドラ」のライバルドラマであり、朝ドラ同様新人女優の登竜門でもあった「昼ドラ」が放送されていた。
その「昼ドラ」の復活である。
フジテレビで企画を蹴られて、テレビ朝日で放送することになったそうだ。
成功したのではないだろうか。
フジテレビ、残念だったね。

多くの人々に夢を与えた仕事をした芸能関係者たちが老後を暮らすホーム。
無料である。
芸能界のドンと言われた人物が、テレビで活躍してきた人たちに老後を安心して豊かに暮らしてもらいたいという思いで、提供している。

脚本家・菊村(石坂浩二)の目線、ナレーションで物語は進む。
一番頼りにされているのかな。大学を出ているし。「先生」と呼ばれている。

最終週を見ると、ここを語るための、ここまでのエピソードのあれこれだったのかな、
と感じる。
最終週はそれほど深かった。

震災と原発、そして今のドラマ界についての苦言。
それらは後進への提言にもなっている。

そこへいくまで、様々なシーンを観せてくれる。
視聴者のシニア層へ向けての情報も満載。例えば、財産のこととか……。
恋愛もある。入居老人と職員の強烈年の差婚も2組。
大女優たちのプライドも渦巻くが、悪態をつきながらも基本的に仲が良い。
ひとり、小春(冨士眞奈美)だけは嫌われ者で、問題を起こす人らしく、入居も許されなかった。
だが、小春のアメリカでのエピソードがとてもよかった。「夢」を叶えるすばらしさを、ひとりのアメリカ老人の物語のなかで小春が語った。
小春は詐欺の疑いをかけられて、無実ではあったが、結局自殺してしまう。
新聞での扱いも小さなものだった。
一方で、物語終盤での大女優九条摂子(八千草薫)の死は、大きな寺での盛大な葬儀でテレビの報道も大きかった。
それが現実の姿なのだろう。

よりみちねこが少し首を傾げるのは、この老人ホームのコンセプト。
「テレビ業界で大活躍して多くの人たちを楽しませてきた人たち」へのご褒美としての入居許可。
逆に言えば、大活躍していない人たちはお呼びでない、という?
確かに、こんなにがんばってきたのに報われない老後、死、だったらおかしいだろう、とは思う。
普通の会社員に比べれば何の保証もない、のかもしれない。
しかし今はむしろ、大活躍した人は潤沢な老後の備えもあるように思う(特に昭和の大スターたちの収入は半端ないようだ)。
小活躍の人たちのほうが大変そうだ。
やっぱり、ご褒美、なのかな。

倉本氏の想いがいかほどにあるのかは計り知れないが、
不安定な社会の昨今的価値観を発展させていく視点だと、
大活躍して財産が十二分にある芸能人たちは、そうでもなかった人たちを助けてあげるような、そんな仕組みがあってもいいように思う。
俳優協会のようなところで独自の年金制度などがあってもよいが。
なぜなら、大俳優たちも、チョイ役の人たちがいたからこそ輝くことができたのだと思うので。
シルバー世代を楽しませる物語なのだろうが、
その辺りだけちょっと、ひっかかった。

戦争というテーマも一方であった。
上記、九条摂子はまさに、戦争中、慰問へ行ったりする女優だった。
戦争が人に与える悲劇や残酷さを語るエピソードもあった。

全体としてはとても心地よいゆったりとした、事件はつど起こるけれども、近頃見かけなくなったのんびりとしたドラマだった。

役者の顔ぶれもすごいが、
石坂浩二と浅丘ルリ子という、元夫婦が共演するというびっくりもあった。

さて、最終週。
菊村が昔々の浮気相手だった女性が震災の津波で流されてしまったと孫娘から聞いて、
原発近くの海岸へいく。
そこで出会った作業員。彼も娘を流された、という。
廃炉作業をしている。その過酷さを淡々と語り、もうここからは何も見つからないよ、
という言葉を残して立ち去る。
なんとなく、黒沢明の映画「夢」の一場面を思い出した。
原発が壊れて人々が逃げ惑うが、逃げるところがない。

さらに最終話。
その孫娘から渡されていた「脚本・手を離したのは私」。
自分と祖母のことを書いた。その感想を述べるために訪れていた旅館で、
実は彼女の恋人が書いたものだと知る。
そこで、菊村は、二人に言う。
ぼくがきみたちの本にうたれたのはね、
今までのテレビドラマに影響されずに、
誰にもこびることなく書かれていたからだよ。
だからコンクールに出したら落とされちゃうかもしれないな。
今のテレビ界というのはすぐに使えるもの、受けるものを重視する傾向があるからね。
その本の新鮮さ、素晴らしさに気づくようなプロデューサーはいないかもしれない。
だけどね、きみたちはそれいいんだよ。
今のテレビ界にはきみたちのそういう本当の創意が必要なんだから。

菊村はすなわち倉本の分身だろうから、
これこそが一番言いたかったことなのかな、と想像するに難くない。

あるキー局のドラマ制作プロデューサーが書いていたドラマの現状について論考がひどかったらくしく、脚本家の野木亜希子がツィートしていた。
ここまで視聴者を馬鹿にした残念なプロデューサーの意見を元に日本のドラマ全体を語られてしまうと悲しいものがある。こんなプロデューサーばかりじゃないよ。

テレビドラマデータベースの古崎氏がこの記事に対する見解を述べられていて、そうだよなーと思って見ていました。私の率直な感想は「この“キー局のドラマ制作に携わるプロデューサー”とは仕事したくないな」でした。こういうPの存在が『ドラマをつまらなくする本当の理由』なんじゃないだろうか。

自嘲したくなる気持ちを汲んで考えると…『視聴率とドラマの質は必ずしも比例しない』という当たり前のことが置き去りにされたまま数字の上下だけ記事にされる現状の中で、わかりやすさや一般ウケにばかり走らざるを得ないという苦悩から出た発言…かもしれないけど、視聴者はそんなに馬鹿じゃない。


こんなプロデューサーばかりじゃないよ。と野木は言っているが、逆に言えば、「いる」ということ。
視聴者にはレベルを下げないと理解できないだろう、そう思いながら、ドラマに限らず番組を作っているらしい、という話も聞いたことがある。
野木が言うように、視聴者はそんなに馬鹿じゃない。
政治もいっしょだね。
かつて「国民はバカだから」と本音を吐いた政治家や候補者がいた。
騙され続ければ、やっぱりバカだ、ということになってしまうが……。

野木の言っていることは、菊村の発言と同じだ。まとめると、
「視聴率を重視する傾向があるから、プロデューサーに媚びない脚本は、コンクールに落ちるよ」
「この良さに気づくプロデューサーはめったにいないだろう」
「それでもいいからまっとうにがんばれ!きみらのような真面目さが必要なんだ!」
ということかな。


ドラマ業界を憂えている倉本からの厳しいメッセージと、
そして、シルバー世代へのエール、
それが「やすらぎの郷」だったように感じています。

最後に。
ドラマ放送途中でお亡くなりになった野際陽子さん。
ファンだったので悲しく残念です。
かなり後ろまで撮影は済んでいたようで、亡くなったという報道のあともずっとお姿を拝見できていました。
ご冥福をお祈りいたします。