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「トットちゃん!」テレビ朝日
主演/清野菜名


黒柳徹子の半生を描く。
テレビ朝日の昼帯ドラマはこれで2作品目。
前作「やすらぎの郷」が2クールの放送だったので、「トットちゃん!」もてっきり半年続くのかと思って観ていたところ、なんだか話の進み具合が早い。
「徹子の部屋」「ザ・ベストテン」「ふしぎ発見」がもう始まってる。このあと何を描くんだろう?
半年間の放送だと、最終週直前まで疑わなかった。

そして、やっぱりそうか、と気づく。
そしてそして終わってしまうことが寂しかった。

特に子供時代のトットちゃん。最高に面白かった。
面白かったという表現には齟齬があるかもしれない。
でも、面白かった。
日頃から黒柳がテレビで語っている思い出話、それらがうまく構成されていた。

「トモエ学園」は、今こそ必要な学校だ。
個性を大事に育んでいくこと、純真に生きることの大切さ。
そして、人生の理不尽や悲しみ。
それらが満載に描かれている。
感受性の強い徹子は、そうした体験を深く深く感じ入っていく。
その都度徹子が感じ、今でも忘れずに心に思っている事々を、大下容子アナウンサーの声がナレーションしてくれる。

アナウンサーのナレーションと言えば、
現在放送中のNHK朝ドラ「わろてんか」では小野文惠アナウンサー、
今秋期のTBS日曜劇場「陸王」では八木亜希子元フジテレビアナウンサーと、
アナウンサーの声が大活躍。
どれも自然な雰囲気でなかなか良い。
八木亜希子は「トットちゃん」にも出演。徹子の母・朝(ちょう)の叔母役。

黒柳徹子は、親密な間柄の人の死に子どものころから多くあっているように感じる。
もちろん、もっと多い人は世の中にはいくらでもいるだろうが。
友人、弟、父、向田邦子、渥美清……恋人。

黒柳の父母の「すごさ」があってこその黒柳徹子なのだな、ということもよく分かる。
母の朝(ちょう)の半生は、NHK朝ドラ「チョッちゃん」でドラマ化。このときチョッちゃん(ドラマの役名は蝶子)役は古村比呂。その古村は「トットちゃん!」では朝の母親役を演じた。
徹子の母親は、音大に通うお嬢様でのんびりしているようではあるが、ものすごい生命力のある人だ。
とくに、戦争疎開中の朝のたくましさは見事だ。
そして、バイオリニストの父親ともども、徹子をまるごと受け止めている。
いやもしかしたら、徹子以上に個性的な夫婦だったのかもしれない。
さらに、この徹子の父は、いわゆる芸術家気質ではあるが、非常にぶれない心の芯を持っている。それが偏向的ではなく、がんこで柔軟とでも言おうか。深い人生哲学に基づいているように見える。
赤紙が来て戦地へ赴くとき、「明児(めいじ)の死よりつらいものはない」と言って旅立っていく。明児とは、徹子の弟で幼いときに亡くなった。
深い言葉だ。芸術家にとって戦地などはまったくもって不似合いな場所だ。そこへ行く覚悟をこうした言葉で表現するとは、ずっしりと響いてくる。
この夫婦にして徹子あり、なのだろう。

黒柳徹子の恋愛話が登場するのは、このドラマがはじめてではないだろうか。
NHKで放送した「トットてれび」(主演/満島ひかり)では、渥美清があこがれの人だったように描かれていたと思う。

徹子の恋人は世界的ピアニストのカール・祐介・ケルナー(城田優)。
これは本当に実話らしい。
ほとんどが実名の登場人物のドラマのなか、彼の名前は仮名のようだったが、実話らしい。
彼の病死までの長い年月、恋人として過ごした。
祐介役の城田優がナイスだった。その城田も、
「徹子の部屋」で、これは本当にあったことなんですよね、と尋ねていた。演者もそう思うのだから、視聴者も、あるいは日本国中、ほんとなの?と思ったのではないか?
城田はドラマのなかでも「徹子の部屋」でも歌を披露してくれたが、大変よい声だ。黒柳も感心していた。
そういえばドラマ「表参道高校合唱部」では合唱部の顧問先生の役だったな。
英語もネイティブのように聞こえるが、もともとは喋れないとのこと。勉強したそうだ。
城田は以前から注目していた俳優だが、上品な雰囲気と知性がさらに増しているように感じた。

それにしても、黒柳とこの音楽家の恋愛関係、よくマスコミに気づかれなかったなと、
それが不思議。
徹子の恋愛は、脚本の大石静が一番力を入れて描いたエピソードだったのだろう、と思う。

そういえば、以前、女優だったかタレントだったか、黒柳さんってもてるんですよね、外国の方に。プロポーズされて云々、と喋っていたことがあったが、この人のことだったのだろうか?

このドラマを通して視聴者は、戦中の日本、戦後のテレビ草創期など、
尋常でない世界を徹子役の清野菜名とともに体感することができる。

そしてやっぱり思うのは、黒柳徹子は特別な天才でもある、ということ。
でもそれは決してエゴ的世界ではない。むしろ全くその逆である。

テレビジョンで世界がつながると平和が訪れる、
そう思われていたようだが、
今はどうも違う方向に行っている。

黒柳徹子は、テレビを通して平和の大切さ、差別のない世界を伝えつづけきた。
そしてこれからも伝えてください。

すばらしいドラマをありがとう。