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「モンテクリスト伯 華麗なる復讐」カンテレ(フジテレビ)
主演/ディーン・フジオカ


なんといっても復讐ドラマなので、すごく深く感じ入りました、という感想はない。
エンターテインメント的に続きを楽しみながら結果を待つドラマ。

超有名なアレクサンドル・デュマの原作は別として、
このドラマとして楽しんだ。

登場人物のキャラが立ちすぎていた。怪演が多い。
主人公・ダン(真海)を亡き者にした悪人ばかりなので当たり前と言えば当たり前だが。

入間公平役の高橋克典は、最近ちょっと悪い感じの刑事の役などが多い印象だが、ここではもう警察の人間でありながら悪の権化だ。
入間は、父親への恨みを晴らす人生を送ってきたようだが、それが誤解だったのかそうではなかったのか、その辺りははっきりしないまま終わった。そして最後、気がふれてしまう。
モンテ・クリスト・真海(ディーン・フジオカ)とのやり取り、そして最後と、保身のために生きている(生きてきた)人間の狂気の表情、行為がすさまじかった。

すさまじかったと言えば、入間の妻(山口紗弥加)。再婚相手なのだが、入間家の財産を自分と息子のものにするために人を殺していく。前妻も彼女が殺した。態度も表情も空恐ろしかった。
山口紗弥加も、癖のある役が多いように思うが、一方で、真面目な役やおとなしい女性の役もこなす。

神楽清役の新井浩文は、こういう役をやらせるとホント上手だ。
彼も、優しい人物から怖い人間まで、幅広い演技力を持っている俳優だ。

さて、女性キャラ二人。
すみれ(山本美月)と留美(稲盛いずみ)。
すみれは、ダンの恋人。結婚式当日にダンは逮捕された。

留美は神楽(新井)の妻だが、入間の愛人だった女性。
女性の強さ、母性の神秘性という観点から、このドラマの決定打は留美ではないか、と思えるくらいだ。

真海は、この復讐劇のなかで「いくつか誤算があった。そのひとつがあなただ」と最終話で留美に語る。
留美と入間の間に生まれた男の子。生み落してすぐにとある別荘(のちに真海の住居となる)の裏庭に埋めて殺した、と思われていたその子どもが生きていた。その青年と留美は、真海の手引きで引き合わされ、関係を持ってしまった。親子である事実を知らされた留美は、驚くが、それよりなんと喜ぶ。
留美は、我が子をこれから助けていこうと誓っている、そして最終話で真海に感謝までする。息子に出会わせてくれてありがとう、と。
真海は「母親の偉大さ」を留美を通して知ることで、もしかしたら、死んでしまった自分の母のことを思っていたかもしれない。そのくらいの癒しがあってほしい、とすら思う。
私も、この「留美」という女性にはあっぱれだ。
息子だと分かってからの留美は、生き生きしていた。それまでの彼女は死んだように生きていたので、その変わりようが見事。

ドラマではあまたの女性像が描かれてきたが、この「留美」はもしかしたら最強かもしれない、と思った。「留美」という女性を知り得ることができただけでも、このドラマを観た甲斐があったと言っても過言ではない。

その反面と言っては申し訳ないような気もするが、
ダンの恋人だったすみれ。
彼女は魅力がない。いや、途中から魅力がなくなった。
気持ちは分かる。
ダンがいなくなってから必死にダンの冤罪を訴えかけて辛い日々を送っていた。が、死亡通知が来て、幸夫(大倉忠義)と結婚して女の子を設けた。すみれは料理研究家、幸夫は俳優として有名夫婦となっている。
当然の成り行きだと思う。しかし、ダンがモンテ・クリスト・真海になって復讐劇を繰り広げなければならなくなってしまったその諸悪の根源はすみれを愛していた幸夫の嫉妬心だった、ということが分かったのちも、娘の幸せが一番大事だということは分かるが、これほどの災難の渦中の女性でありながら、なんとも腑に落ちない心の動きをするな、と私は訝りながら冷淡に彼女を見つめていた。
渦中にあっても誰も恨まないキャラクターは、冷静さや清潔さを醸し出しているのかもしれないが、むしろ何も感じていないのかこの人、と思ってしまう。
ここまで送ってきた生活がすでに幸福だったということなのか、という感想は安易かもしれないが。
もう少し、くやしがってもよかったのに。幸夫がいくら娘の父親であるとはいえ、もうすこし恨んでもよかったのに、と思う。殺そうとはしたけれど。
最後、ダンに強制されて「あなたと結婚します」と言ったのも、すこし違和感があった。
おそらくそうすることで復讐をやめさせよう、という意志が強く、ダンを愛しているからではなかったように感じた。
山本美月がもうすこし全身で演ずる力量があれば、もっと違った印象になったかもしれない。
これは、ミスキャストかもしれない。

いずれにせよ、
予想どおりの結末ではあった。このドラマには、たった二人の純真な人物がいる。真海は彼らを助けて死ぬだろう、と。
純真な二人は、真海がダンだったときまだ子供だった守尾信一朗(高杉真宙)と、入間の娘未蘭(岸井ゆきの)。強欲と悪の渦巻くなかにあって、この二人だけは、いわゆる泥沼に咲く蓮の花だ。

最後、自ら屋敷に火を放って自殺した真海。
いや、真海は不死身、そんな印象受けた視聴者は、死んだことにしてどこかで名前を変えて生きているのではないか、と燃え盛る屋敷を見ながら思ったのではないだろうか。
おそらく生きていると、私も思っている。

すっきりしなかったのは、幸夫と神楽。
生き残って警察で取り調べを受けているが、まるで自分たちのほうが被害者のように喋っている。
そもそもダンを陥れる悪だくみを考えて、自分は手を汚さなかった。それが神楽。それが一番悪質だ、だから自分もそのやり方を真似ました、と真海は神楽に向かって言った。
この二人はこれからも生き続けるのだろう、平然と。

そして、本当に最後の最後。エピローグシーンの海辺の男女。
男性は真海だと分かるが、女性はやはりすみれ、なのだろうか?
一瞬、愛梨(桜井ユキ)にも見えるのだが。
愛梨は真海の復讐の手助けをしていた女性。香港で両親を殺されて、そののち悲惨な生活を強いられて生きてきた。その殺人事件に幸夫が絡んでいたので、幸夫を恨んでいた。
私は、すみれよりも、愛梨であってほしい。
なぜなら、このドラマの中で、他に悪人はいっぱいいるのにもかかわらず、私はすみれが一番好きではないから。
それとも、信一朗と未蘭のイメージでもある?ちょっと違うな。

余談だが、
未蘭役の岸井ゆきの。
ちょうど同時期NHKの「やけに弁の立つ弁護士が学校でほえる(主演/神木隆之介)」に出演していた(このドラマ、一話30分ものだったが、面白かった)。
今年秋からのNHK朝ドラ「まんぷく」にも出演が決まっている。
これからが楽しみな女優。応援したい。
小柄も手伝ってとても若く見えるけど、26歳ですって。