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「戦争めし ドラマ×マンガ」NHKBSプレミアム
2018年8月11日放送
原案・漫画提供/魚乃目三太
脚本/山咲 藍
駿河太郎/壇蜜/温水洋一/佐野岳/江上敬子/車だん吉/田中泯/草笛光子



なんだろう、このドラマ。
とりあえず録画しとくか。

放送翌日12日に観た。

面白かった。
愉快だった、という意味ではない。

なにしろ、戦争を描いたドラマなので。

そうかぁ、15日は終戦(敗戦)の日だ。
だんだん少なくなり、目立たなくなったとはいえ、
この日が近づくと、戦争を伝えるドラマや、ドキュメンタリーが放送される。

戦争の描き方もさまざまだ。
私は繰り返し書いているが「ライフ・イズ・ビューティフル」。
1997年イタリア映画。
こんな描き方があるんだ、と驚いた。コメディアンがコメディで描いたユダヤ人強制収容所。ちりばめられた笑いの要素。笑いながら見ているがゆえに、戦争の悲惨、悲劇が、いつの間にか強烈に迫ってくる。やりきれない悲しみが忍びない。戦争を憎むことができる。

このドラマ「戦争めし」も、涙を禁じ得ない。
辛い戦争体験。そこに絡んでいる食。

担当編集者・井澤奈緒(壇蜜)からダメ出しをくらってばかりの漫画家・山田翔平(駿河太郎)が、行きつけの小料理屋「みち」の女将・みつ江(草笛光子)から、すしが戦争による食糧難で小さくなったという話を聞いて、戦争と食についての漫画を描こうとひらめき、取材をしてエピソードを集める。
その題材は成功し、連載、単行本出版へと進んでいく。

今回は4つのエピソードが語られる。
にぎりめし、ワイン、うなぎのタレ、おでん。
戦争体験エピソードの部分はマンガで表現されており、演出も効果的だ。

翔平もマンガを描きながら気づいていくが、彼らにとって戦争は終わっていないんだ、ということ。それが十分に伝わってくる内容となっている。

私も思ったことがある。
戦争へ行った人たちは90歳を越え、80代、70代はまだ子どもだった。戦争について語り伝えることができる人たちがどんどんいなくなる、とよく言われている。
その上、最近ようやく重たい口を開いて語り始めた体験者たちもいる、と聞くと、どうしてもっと早く話してくれなかったのか、と思ったりもしていた。
日本の場合、当時の資料が焼き捨てられて記録が残っておらず、体験した戦争被害者(国民)たちが語ってはじめて表へ出てくることも多いように思う。

けれども、このドラマの最後のエピソードを見て、今更ながらはっとした。
「おでん」の話。19歳で徴集されてインパールへ行った前田(車だん吉)。現在93歳。同じ部隊で知り合った同い年の優しい青年の思い出を小料理屋「みつ」で語る。彼は、イギリス軍に撃たれて死ぬ直前「おでん」が食べたいと言っていた。それ以来、おでんを注文してもおでんが食べられないまま73年が過ぎ去った。そして、前田は言う。この話は家族にも話したことがない、初めて人に話す、と。

話せない、話せなかった、のですね。

話すことは癒しの作業であるというのは、現在のカウンセリングでは当たり前のことではあるが、
「話せない」ほどの地獄、というものがある……。

戦争の罪は大き過ぎる。
70年以上も、傷を心に抱えたまま生き続けてきた人々が、日本に、世界に大勢いる。
この戦争だけではない。
朝鮮もベトナムも中東も……。
アメリカ兵士のPTSDも深刻だと聞く。アメリカのテレビドラマ「クリミナル・マインド」のエピソードでもいくつか描かれている。

日本で言えば、あの戦争はまだ終わっていないのだ。
終わるとき、それは再びの戦争のときなのか、平和実現のときなのか。

人それぞれに、それぞれの戦争体験がある。

食の観点からのエピソード。
人間味あふれる感動もあり、そんなことがあったのかという事実認識もある。
戦争アーカイブ的にも、さらにつくっていってほしい。

こうした形で、すでに原爆のことも知らないという世代へ、戦争の酷さ、苦しさ、悲しさを伝えていくことは必要だ。
テレビドラマにもその役割はあるのだろう、と思った。