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「僕らは奇跡でできている」
フジテレビ(カンテレ)火曜夜9時
脚本/橋部敦子
出演/高橋一生 榮倉奈々 要潤 児嶋一哉 戸田恵子 小林薫


都市文化大学の動物生態学研究室の講師として、恩師である生命科学部学部長・鮫島(小林)に呼ばれた相河一輝(高橋)。

そもそも学者は、変わりものの集まりだが、相河は、なかでもとびきりの変人に見える。
彼の正直すぎるところ、率直さが、ときに迷惑に見えるかもしれないが、実は人間の本質をついてくる鋭い感性だったりする。
おそらく相河は、教授になろうとかいう権威的欲望からはほど遠い人物なのだろう。研究し、探究し、疑問を追及していくことに常に集中して生きている。

彼のキャラクターも、ヒーロー的要素を持っていると言える。
具体的で物理的な問題を解決してくれるわけではないし、困っている人を助けてくれるウルトラマンでもない。が、「グッド・ドクター」「義母と娘のブルース」の主人公ヒーローキャラとの共通点は、嘘をつけないところ。
何でも正直に言えばいいというものでもないのが人生ではあるが、私たちは、どうも不正直に我慢することが美徳のように生きてきてしまったのではないか。ゆえに、このようなキャラクターが続々登場しているのかもしれない。
もうひとつの共通点は、正確な情報をくれるところ。それはときに特殊な分野かもしれない。「スタートレック」のセブン・オブ・ナインやホログラムドクター、データのように、百科事典万能さはないが、例えば相河は、第2話のフィールドワーク中に、シカの鳴き声を聞いて○○メートル先にいると、詳細な情報を学生たちに発信する。学生たちにはそれが本当かどうかは確かめようもないのではあるが。
ある意味のスーパーマンだ。

本質をついてくる人間、自分の知らないことを言ってくる人間を、人はニガテに思って遠ざけたり、酷い時には自分を守るために攻撃したりもするが、ちょっと変わった「正直善人キャラ」は、私たちに大切なことを気づかせてくれる存在だったりする。その場合、善人であることははずせないだろう。なぜなら、悪人であればその言動には悪意が伴うのであろうし、もし善なる表現をしているのなら、それは詐欺師なのではないか、と思うので。

歯科医師・水本育実(榮倉)との関係とやりとりが「古い」という評価もあるようだが、男女の不思議な出会いとしてはドラマ上よくあるパターンだし、だからといってとくに古くさいとも思わない。むしろ、二人の感覚が新しいようにすら感じる、平成最後の秋に。
もしかしたら最近の傾向かもしれないが、自分の心を見つめる傾向がある。
水本と相河は、互いにニガテ意識を抱いているが、水本は相河の言動に何かを気づきはじめている。
互いに何か学びを得ていくことになるのか……

第1話の「うさぎとかめ」の解釈も哲学的でよかった。
なぜかめは、寝ているうさぎに声をかけなかったのか問題。

授業中、退屈そうにしている学生たち。
第2話ではフィールドワークの授業もあったが、学生たちの思いがどう変化していくのか、ということろも興味深い。

劇伴と作品のまったりとした雰囲気から、このドラマにも「かもめ食堂」「めがね」「すいか」といった一連の小林聡美主演の映画とドラマが思い浮かんでくる。それは、いつかどこかで観たという批評ではなく、刺激的展開や大声、受け狙いの決り文句のみで迫ってくるドラマが多い昨今、静かな空気のなかで進んでいきながら、それぞれの心にそれぞれ何かを伝えてくれる物語、という意味です。

毎日新聞2018年10月21日「10月新ドラマ 担当記者座談会(上)」での評価は、良いと良くないに別れている。まあまあという回答が一人いるので、良いがちょっと優勢、かな。

良いという評価のSさん
うまく社会になじめない大学講師が高橋にぴったり。
特に何も起こらない日常の物語だが、橋部敦子の脚本がよく、その世界に引きつけられた。

良くないというIさん
私には、この平凡な日常もストーリーがちょっとまだるっこしくて退屈。
でも、せかせかと生きる私たち現代人には、不思議な感覚になれるね。

そういうことなのですね。こういったドラマを評価しない人たちは
「何も起こらない日常の平凡な物語が退屈」なのですね。
私は、非常に面白いです。
中だるみしないことを期待します。

追伸
同じ研究室の樫野木准教授役の要潤。最近、こういう役が多いように思う。つまり、現実的で保身的で、主人公を敵視しているかと思いきや、実は助けている存在。いいポジションにはまったかもしれない。現在朝ドラ「まんぷく」にも出演中。こちらも良さげな役です。金銭欲のない画家。
講師の沼袋(児嶋)は、研究室でアリばかり見ているが、実は研究室の人間関係を鋭く観察している?